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コーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ)作品に出てくるジャズの定番を聴いて感想を書くブログ。 ジャズにも詳しくないし耳も大してよくないので、曲と小説が合っている、とかそんな程度。
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 ウールリッチの記念すべきミステリ長篇第一作『黒衣の花嫁』第一章エピグラフに掲げられた作品。(※とはいうものの、初版ではポーの引用だったようですが)。

蒼い月よ、見ていたねおまえは、心に夢もなく、
秘めた恋ももたず、ひとり佇むわたしを。
蒼い月よ、知っていたねおまえは、
なぜわたしがそこに佇んでいたかを……。
(稲葉明雄訳)

 ロジャース&ハートによる1934年の名曲です。わたしが持っているのはMel Torme(メル・トーメ)が歌っているもの。『Isn't It Romantic』(CAPITOL SINGS Rodgers & Hart)というコンピCDに収録されていました。

 昔々のディズニー映画でも始まりそうな雰囲気のイントロです。バンビかなにかが目をパチパチさせて目覚めるシーンとか。そして低くも高くもない癖のない声で、「ブル~~~うぅうう~~~うぅうぅぅぅむぅ~ん」と始まります。

 静かで穏やかな詩とメロディをしっとりと聴かせる曲なのですが、実を言うとわたしは、上記の歌詞だけ読んで、しかも『黒衣の花嫁』に引用されているんだから絶対に悲劇的な暗い曲だ、と先入観を持ってこの曲を聴いてしまいました。そう思い込んで聞いてしまうと、静かで穏やかな曲も、暗くて不気味な曲に聞こえてしまうから不思議です。

 しかしなにしろ引用部分だけ読むと、あまりにも『黒衣の花嫁』の内容にぴったり合いすぎています。(※本音を言えばむしろ同じパターンの『喪服のランデヴー』の方がさらにぴったりなのですが)。

 ところが実はこの曲、なんとハッピーエンドなのです。

蒼い月よ、
見ていたねおまえは、心に夢もなく、
秘めた恋ももたず、
ひとり佇むわたしを。
 
蒼い月よ、
知っていたねおまえは、なぜわたしがそこに佇んでいたかを
聴いていたねおまえは、
恋いしい人に捧げる、わたしの祈りを。
 
思いがけず現れたんだ、
最愛の人が。ずっと離さない
囁く声が聞こえたんだ、「愛して」と。
見上げると、
いつか月は金色。
 
蒼い月よ、
今はもう、心に夢もなく、
秘めた恋ももたず、
ひとり佇むこともない。

 「Now I'm no longer alone~(今はもう~ひとり佇むこともない)」の箇所では、よく聞くとバックに「チャララッチャンチャン♪」と楽器が入って、前向きな歌詞を盛り上げています。

 『黒衣の花嫁』の映画化で、この曲がタイトルバックに使用されていたらぴったりでしょうね。最後の部分が盛り上がるところはちょっと明るすぎるかなと思いますが、それはそれで残酷さが際立ってよいかもしれません。

 それにしてもウールリッチはよくこんな残酷なことを思いついたものです。『黒衣の花嫁』を読んだ方ならおわかりのとおり、この物語は決してハッピーエンドにはならない物語です。「蒼い月」は「蒼い月」のまま、決して「金色」になることはありません。だけど当時の読者なら、おそらくエピグラフを読んだだけで誰もがピンときたでしょう――ああ、あの曲だ、と。そしてもしかしたら、幸せな結末を期待しながら読んでいたのかもしれません。ところが――。

 引用されている歌詞の全内容を知ってから、この曲をBGMに物語を読むと、ただでさえ悲劇的な物語がいっそう悲劇的に感じられます。
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 Isn't It Romantic: Capitol Sings Rodgers & Hart
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『黒衣の花嫁』コーネル・ウールリッチ著/稲葉明雄訳(ハヤカワ文庫)
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