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コーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ)作品に出てくるジャズの定番を聴いて感想を書くブログ。 ジャズにも詳しくないし耳も大してよくないので、曲と小説が合っている、とかそんな程度。
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「ナイト・アンド・デイ」(Night and Day)~『黒衣の花嫁』

 『黒衣の花嫁』第3部のエピグラフに掲げられた、コール・ポーターによるスタンダード・ナンバー。

 好きな人を想う歌も、ウールリッチにかかれば恨む相手を狙う歌に早変わりです。タムタムが鳴るように、時計の針の立てる音のように、雨がビシャビシャと落ちるように「お前・お前・お前」だなんて、怖すぎます………。ほとんど休みなく、ですからねえ。。。

 エラ・フィッツジェラルドによるボーカルは、陽気なイントロから始まり、怪しげにぞぞぞぞぞと盛り上がってゆく、まるで本書のために歌われたような名曲。歌詞をよく読むと、サビの直前になるまでは、何が「タムタムの響きのよう」なのかはわからないんですよね。だからこれは、歌詞の内容に沿ったアレンジなのだと思います。怪しげに怪しげに歌いつつ、「you, you, you」からは、がらっとムード曲っぽく様変わりします。

 ビリー・ホリデイのカバーはちょっと違う。というのはつまり、ビリーが歌うと飽くまで恋愛の歌であって、『黒衣の花嫁』に誤読のしようがないのですね。一つの曲としてはそれはそれで(というか普通であれば当然)素晴らしいカバーなのですが、ウールリッチ・ファンとしてはそれではちと悲しい。

 数年前によくかかっていたSisterQのカバーが、意外なことに『黒衣の花嫁』にはぴったりと合います(と思ったら『Mの悲劇』の主題歌だったのか、意外でもないや。というか、ドラマの内容から見て、『黒衣の花嫁』→「Night and Day」→主題歌決定!という連想の流れなんでしょうか?)。ビミョーに昏くてそのくせ透明感のある歌声がぴったり。でも歌詞が日本語オリジナルなんですよねえ。

ナイト・アンド・デイ

ジャングルに影落ちるときの
タムタムの響きのように
壁を背にした大時計が
チクタク時を刻むように

夏に夕立の雨粒が
ポタポタと落ちるように
胸の内で繰り返し唱える
キミキミキミ

夜も昼も、君だけを
月のもとでも陽のもとでも
側にいても離れていても
どこにいようと
君のことを
昼も夜も、夜も昼もなく

往来の喧噪のなかでも
一人寂しい部屋の中でも
どこに行こうと離れないのは
君のこと
昼も夜も、夜も昼も

秘めた心の奥底でも
焦がれる想いが燃えていても
この苦しみに終わりがあるなら
愛することに生きること
昼も夜も、夜も昼も

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 『黒衣の花嫁』(ハヤカワ文庫)
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  『Night and Day』Cole Porter
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  『Lady Day』Billie Holiday
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 「Night and Day」SisterQ
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「月に咲くバラ」(Moonlight and Roses)~『黒い天使』

 長篇『黒い天使』第9章に登場する曲です。

 夫の無実を信じる主人公“エンジェル・フェイス”が、ナイトクラブの潜入捜査を試みる場面。踊り子としてオーディションを受けるものの、ダンスの心得はまるでなし。伴奏に頼んだ曲が、夫の好きな「月に咲くバラ」でした。

 オリジナルは1925年、作詞作曲はBen Black&Neil Moret、Ray Miller Orchestraによる演奏です。

 オリジナルのCDは現在は手に入らないようですね。でも探してみると、こことかここで無料で聴くことができました。

 聴きながら読み返してみると、小説の印象までがらっと変わってしまい驚きました。タイトルだけ知っている「月に咲くバラ」をリクエストしたはいいけれど、踊りのできない“エンジェル・フェイス”は曲のテンポに合わせられずに尻餅をついてしまいます。この場面、特にどうということもなく読んでいたのですが、この曲があるだけでドタバタコメディに早変わりです。チャップリンの映画とかみたい。

 ウールリッチというと、おそらく読者の方も訳者の方も、ロマンチックとかセンチメンタルとか先入観を持ってしまいがちですが、実に意外な顔も持っているものです。

 曲は前半がイントロ。後半にボーカルが入っています。実にのんきというか、もはやノーテンキといってもいいような、王道オールド・ジャズ・ナンバー。ズンチャ、ズンチャ、ズンチャ、ズンチャ♪のリズムが心地よい。

 だけどウールリッチが書いているのはこの曲のことでいいのだろうか? 「テンポがスローすぎて」と書いてあるけど、この曲に合わせて「ピルエット」というのはスローどころか半端じゃない技術のような気がする。そりゃ尻餅もつきますよ。

 はてな?と思い確認してみると、Vaughn Monroeが歌っているバージョンは、“エンジェル・フェイス”も言うように「テンポがスローすぎ」る曲でした。低い声でまったりこってり歌い上げるタイプの曲です。「My Funny Valentine」みたいなやつ。この手のタイプはかなり苦手です。

 こちらは確認したのですが何年の発表かわかりませんでした。でもおそらくウールリッチの頭にあったのはこっちでしょう。う~んでもそうなると、ウールリッチのコメディセンスというのは勘違いか。いやそもそもピアニストがスローにアレンジしていただけかもしれないし、わかりませんが。

月に咲くバラ

月の光に咲くバラが
きみに思い出を届けてくれる
ぼくの心も安らいだ
とびきり素敵な思いつきに。

初夏の光にさらされて
恋のきらめきがよみがえる
月の光に咲くバラが
届けてくれる、思い出を。

 

On the Moonbeam/Down Memory Lane
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黒い天使
コーネル・ウールリッチ著 / 黒原敏行訳
早川書房 (2005.2)
ISBN : 4150706069
価格 : ¥798
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 HOME ロングマール翻訳書房

 名作「ハミング・バード帰る」より。鼻歌を歌いながら人を殺す銀行強盗“ハミング・バード”――かれが口ずさむ曲が、この「セント・ルイス・ブルース」です。

あの夕日が沈むのを見るのが切なくて

きょうの思いはあすもかわらず

トランクに荷を詰めて逃げだそうと

心は海になげられた石に似て(村上博基訳)

 彼に去られた女が街を出ようと決意するけれど、やっぱり愛してる、という内容。村上氏も稲葉明雄氏も、「I hate」をそれぞれ「切なくて」「こころ悲し」と訳しております。杓子定規に「憎む」じゃないところがお二人ともさすがだなーと感心しきりです。都筑訳と稲葉訳はなんとなく調子が似ているので、なにか定訳みたいなのがあってそれを引用したのかもしれません。

 ウィリアム・ハンディ作による、スタンダード・ナンバー中でもとりわけのスタンダード。わたしが持っている盤はビリー・ホリデイが歌っているもの。『Billie Holiday 1939/42』。そしてビリー・ホリデイ版こそおすすめです。ビリー・ホリデイが歌うちょっと蓮っ葉でいて包み込むようなあねご肌の声を聞いていると、いかにも古き良きジャズの雰囲気にどっぷり浸かって、ハミング・バードの残酷な犯行も、白黒やセピア色のオールド・ムービーのよう(銃声はするけど血糊はなし)。なおかつ、あのちょっとだみ声に近い、かすれているのにかさかさしてない甘い声(甘いのに鬱陶しくないかすれ声)が、切なくて残酷でほろりとする作品の雰囲気を盛り上げてくれます。

 村上氏が訳していない部分もなんとか村上訳風に訳してみようとしたのですがどうもうまくいかず、演歌みたいになってしまいました。

セント・ルイス・ブルース

あの夕日が沈むのを見るのが切なくて
あの夕日が沈むのを見るのが切なくて
あのひとが出ていったこの街で
きょうの思いはあすもかわらず
きょうの思いがあすもかわらずつづくなら
トランクに荷を詰めて逃げだそうと

ダイヤを填めたセント・ルイスの
女に魅かれてあのひとは
あの女さえいなければ
どこにも行かず、どこにも行かず
いまのあたしはセント・ルイス・ブルース
とってもブルー
心は海になげられた石に似て
さもなきゃ遠く離れてゆくはずもなく

わたしにとってあのひとが 子どものお菓子
ケンタッキーさんのミントとライ麦
死ぬまでずっと好きなもの

  Billie Holiday 1939/42
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  Blue Billie
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アイリッシュ短編集 6
ウィリアム・アイリッシュ著
東京創元社 (1990)
ISBN : 4488120083
価格 : ¥735
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 ウールリッチの記念すべきミステリ長篇第一作『黒衣の花嫁』第一章エピグラフに掲げられた作品。(※とはいうものの、初版ではポーの引用だったようですが)。

蒼い月よ、見ていたねおまえは、心に夢もなく、
秘めた恋ももたず、ひとり佇むわたしを。
蒼い月よ、知っていたねおまえは、
なぜわたしがそこに佇んでいたかを……。
(稲葉明雄訳)

 ロジャース&ハートによる1934年の名曲です。わたしが持っているのはMel Torme(メル・トーメ)が歌っているもの。『Isn't It Romantic』(CAPITOL SINGS Rodgers & Hart)というコンピCDに収録されていました。

 昔々のディズニー映画でも始まりそうな雰囲気のイントロです。バンビかなにかが目をパチパチさせて目覚めるシーンとか。そして低くも高くもない癖のない声で、「ブル~~~うぅうう~~~うぅうぅぅぅむぅ~ん」と始まります。

 静かで穏やかな詩とメロディをしっとりと聴かせる曲なのですが、実を言うとわたしは、上記の歌詞だけ読んで、しかも『黒衣の花嫁』に引用されているんだから絶対に悲劇的な暗い曲だ、と先入観を持ってこの曲を聴いてしまいました。そう思い込んで聞いてしまうと、静かで穏やかな曲も、暗くて不気味な曲に聞こえてしまうから不思議です。

 しかしなにしろ引用部分だけ読むと、あまりにも『黒衣の花嫁』の内容にぴったり合いすぎています。(※本音を言えばむしろ同じパターンの『喪服のランデヴー』の方がさらにぴったりなのですが)。

 ところが実はこの曲、なんとハッピーエンドなのです。

蒼い月よ、
見ていたねおまえは、心に夢もなく、
秘めた恋ももたず、
ひとり佇むわたしを。
 
蒼い月よ、
知っていたねおまえは、なぜわたしがそこに佇んでいたかを
聴いていたねおまえは、
恋いしい人に捧げる、わたしの祈りを。
 
思いがけず現れたんだ、
最愛の人が。ずっと離さない
囁く声が聞こえたんだ、「愛して」と。
見上げると、
いつか月は金色。
 
蒼い月よ、
今はもう、心に夢もなく、
秘めた恋ももたず、
ひとり佇むこともない。

 「Now I'm no longer alone~(今はもう~ひとり佇むこともない)」の箇所では、よく聞くとバックに「チャララッチャンチャン♪」と楽器が入って、前向きな歌詞を盛り上げています。

 『黒衣の花嫁』の映画化で、この曲がタイトルバックに使用されていたらぴったりでしょうね。最後の部分が盛り上がるところはちょっと明るすぎるかなと思いますが、それはそれで残酷さが際立ってよいかもしれません。

 それにしてもウールリッチはよくこんな残酷なことを思いついたものです。『黒衣の花嫁』を読んだ方ならおわかりのとおり、この物語は決してハッピーエンドにはならない物語です。「蒼い月」は「蒼い月」のまま、決して「金色」になることはありません。だけど当時の読者なら、おそらくエピグラフを読んだだけで誰もがピンときたでしょう――ああ、あの曲だ、と。そしてもしかしたら、幸せな結末を期待しながら読んでいたのかもしれません。ところが――。

 引用されている歌詞の全内容を知ってから、この曲をBGMに物語を読むと、ただでさえ悲劇的な物語がいっそう悲劇的に感じられます。
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 Isn't It Romantic: Capitol Sings Rodgers & Hart
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『黒衣の花嫁』コーネル・ウールリッチ著/稲葉明雄訳(ハヤカワ文庫)
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 テスト

 まずはテストです。テストが終わってうまくいけば本番です。どんな感じになるのか確かめるため長い文章を書いているところです。

 ――明治の頃。警視庁に二人の探偵がおりました。「おい大村。あの鞄はどうも怪しい。血がにじんでいるではないか」鞄を開けてみますと、中からばらばらにされた女の死骸が出て参りました。「俺はさきほど宿屋へ入った女が怪しいと思う。俺は面が割れているから、速水、ひとつおまえが田舎者に変装してくれ」
 ――明治の頃。警視庁に二人の探偵がおりました。「おい大村。あの鞄はどうも怪しい。血がにじんでいるではないか」鞄を開けてみますと、中からばらばらにされた女の死骸が出て参りました。「俺はさきほど宿屋へ入った女が怪しいと思う。俺は面が割れているから、速水、ひとつおまえが田舎者に変装してくれ」

 ――明治の頃。警視庁に二人の探偵がおりました。「おい大村。あの鞄はどうも怪しい。血がにじんでいるではないか」鞄を開けてみますと、中からばらばらにされた女の死骸が出て参りました。「俺はさきほど宿屋へ入った女が怪しいと思う。俺は面が割れているから、速水、ひとつおまえが田舎者に変装してくれ」

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